季刊誌『光明』

平成29年-新春-第202号



光明アカデミー



お大師さまのどころとなった密教経典みっきょうきょうてん両部大経りょうぶのだいきょう

千葉市大日寺住職 大正大学学長 大塚伸夫(僧名 慈伸)




  お大師さまの著作に、真言宗を開かれた際にあらわされた『真言宗所学経律論目録しんごんしゅうしょがくきょうりつろんもくろく』があります。ここには真言宗に所属する僧侶が学修せねばならない経典と戒律書と論書の書名が列挙されています。中でも重要なものが、後の世に「両部大経」と呼ばれる『大日経だいにちきょう』と『金剛頂経こんごうちょうぎょう』です。それは、お大師さまが真言宗を開かれる際に最も重要視され、依り所とされた経典だからなのです。
  すでに『解深密経げじんみっきょう』『般若経はんにゃぎょう』『法華経ほけきょう』『華厳経けごんぎょう』といった他宗の依り所となった有名な経典が数多く存在したにもかかわらず、なぜ、お大師さまは両部大経を選択されたのでしょうか。その理由として、お大師さまはそれらの経典の説く悟りの境地はまだ迷いのレベルであるとみなしたからです。その上で唯一、言葉に表せない究極的な悟りの境地を開陳かいちんしたのが両部大経だと主張されたのです。
  まず『大日経』というお経は、お大師さまが真言宗の教えを構築されるにあたって多くのヒントを与えてくれた経典なのです。その一つを例にあげれば『大日経』には悟りとは何かという問いに答えて「すべての思考を排除したところにあらわとなる、最深部の自心を直観すること(如実にょじつ知自心ちじしん)」であると説かれます。そして、とらわれた煩悩ぼんのうまみれの浅い心より出発して最深部の心に到達し、仏と成るまでの過程を明かすのです。こうした『大日経』の自心への探究を、お大師さまはご自身の著作となる『十住心論じゅうじゅうしんろん』や『秘蔵宝鑰ひぞうほうや』で十段階の心の深まりに集約して、十住心思想を構築されました。まさに『大日経』の如実知自心の教えによって、お大師さまは心の成仏じょうぶつの流れを明確に示されたのです。
  一方『金剛頂経』には、まだ悟りを開く前のお釈迦さまをイメージした一切義成就いっさいぎじょうじゅ(シッダールタ)菩薩ぼさつが、五相成身観ごそうじょうしんがんという秘観によってこころ即身成仏そくしんじょうぶつする姿が描かれています。これをヒントにしたお大師さまは、私たちと仏さまとの間に何か共通するものがあるのだろうと洞察どうさつなさり、私たちの内奥に秘蔵された仏との同一性(大日如来の存在)に気づかれたのです。そして、その答えが心的にも身的にも即身成仏できると主張された『即身成仏義そくしんじょうぶつぎ』という著作に結実されたのです。
  このようなわけで、両部大経が真言宗にとって重要な十住心や即身成仏という教えを根底から支えてくれる経典といえるのです。
  本当にお大師さまは偉大な方です。なぜ偉大かといえば、お大師さま以前の成仏論は心の成仏だけを主張したものだったのです。そうした中で、お大師さまは心の成仏だけでなく、生きている間にこの身のまま成仏できると主張されたのです。筆者の知る限り、ここまで成仏を理論的に昇華させた人物は他にいないと思うのです。
  読者のみなさま、お大師さまの深い教えに接する時、ぜひ、その背景に両部大経の教えが介在することを知ってほしいのです。





第202号目次へ戻る→




『光明』年間購読のおすすめ


『光明』は年4回(正月/春彼岸/お盆/秋彼岸)の発行です。

年間購読の予約をされますと、毎号直接、有限会社豊山よりお送りいたしますので、大変便利です。
檀信徒以外の個人の方もご予約できます。

年間購読料について

1部:900円(税込・送料含)、2部:1,500円(税込・送料含)、3部:1,800円(税込・送料含)、4部:2,200円(税込・送料含)、5部:2,600円(税込・送料含)
※6部以上をお申し込みの場合は、有限会社豊山までご連絡下さい。



有限会社豊山

〒112-0012 東京都文京区大塚5-40-8
TEL/03-3945-3555 FAX/03-3945-0702
(土・日・祭日・その他仏教行事等で、長期お休みを頂く場合も御座います。予めご了承下さいますよう宜しくお願い致します。)