季刊誌『光明』

平成30年-新春-第206号



いのりの案内人



お大師さまが開創したと伝えられる四国八十八ヶ所霊場。
四国四県に点在する 札所 ふだしょ 寺院の 巡礼 じゅんれい 遍路 へんろ といい、巡礼する人はお遍路さんと呼ばれます。
はじめての巡礼では、右も左も分からないことだらけです。
でも、そこにはお参りの作法やお寺の縁起を伝える案内人がいます。
四国霊場も頼りにする公認先達です。

      

  先に立つ人

  四国八十八ヶ所霊場の公認先達は、易々やすやすとなれるものではありません。霊場を4回以上巡拝していて、さらに霊場寺院のいずれかから推薦すいせんを受け、適任と認められなくてはなりません。知識と経験を自身で積み重ねてはじめて、お墨付きを得ることができます。

  二人三脚

  はじめに紹介するのは、徳島県在住の田野義明さんです。田野さんは遍路専門の旅行会社、光明トラベルの会長に就きながら先達をつとめます。
「18歳でバス会社へ就職して整備をしながら、ガイドとして納経のうきょうとりもしとったんですね。そんな中で、お遍路さんからいろいろ相談や質問を受けました。その頃から先達としてお遍路さんの手伝いをしてみようかと」
納経とりとは、お遍路さんがおつとめをしている間に、代わりに納経帳に御朱印ごしゅいんをいただくことです。
「お遍路さんに何かを教えても、先達でもないのに、と言われたことがあって、そんなことも公認先達を目指すきっかけになりましたね。36歳から、30年あまり先達をさせてもらってます。
  先達をしながら、納経とりの添乗員もやってきたけど、体力が落ちてきて納経帳持つのもしんどくなってきた頃、東京から戻ってきた息子が手伝ってくれるようになりました。そうやって何とか続けながら、バス会社の定年を迎えるときに、父さん、会社作ろうかって言ってくれたんです。それで今の会社があるんですよ」
  現在は、親子二人三脚でお遍路さんを支えています。

  お大師さん

  先達を続ける中で、特に思い出深い出来事を話してくれました。
「岩屋寺さんとは不思議なご縁があるんですよ。お堂に続く参道に、道開きのお不動さんがいらっしゃる。納経とりで登っとったら、そこで足が動かなくなってしまって。困ったな-と座っていたら、上から若い修行僧がおりてきた。
  その時ね、なぜかその姿がお大師さんに見えたんです。〝お大師さんに会った?って人の話は聞いたことあったけど、これがまさにお大師さんかと。悲しくもないのに、涙が出てきてね。そのとき、もうこれでええわ、今までのつらいことも、先のことも捨ててまえ、今やることだけやろうと思えたんです」
  なんとか参道を登り終え、納経を済ませると、なぜか足の痛みがなくなっていたそうです。
  「その4、5年後、岩屋寺の住職さんに、お不動さんでの出来事を話すと、よく思い切りましたねって言われました。迷いは捨てて、ただ一日一日、今を生きるっていうことを住職に教えていただきました」

  楽しく楽しく

  「先達としてのモットーは、楽しみながら遍路をしてもらうということ。初めての人はお経も大変だけど、とにかくやってほしい。終わったら楽しくなるんですよ。四国お参りしてみんなで何百巻も一緒にお唱えしたんだから、お大師さんが見捨てるはずありません。
  不思議と、つらいことを乗り越えた人は明るい。笑いながらいいおじいちゃん、おばあちゃんになろうっていつも言っています。
  旅立つ人を何人も見送ってきましたが、信心のあった人はみんないい顔してる。お大師さんに見守られて、仏さまのもとに帰っていく、それを願っているから幸せなんじゃないかなって思います」と語る田野さんの顔には、やさしさがあふれていました。

  遍路今昔

  田野さんが不思議な体験をした第45番札所、岩屋寺(真言宗豊山派)大西完善住職にお話をうかがいます。
  「四国遍路は、この50年くらいで大きく変わりました。昔は先達さんが、ご自分でこうというものを組織してお遍路に来ていましたね。多いときは100人ぐらいで名古屋や大阪からのお参りもよくありました」
  最近はかつての講が減り、バスツアーが増えたそうです。
  「気軽に参加できる交通会社主催のツアーが盛んになりましたね。その中には、次はゆっくり回りたいと思う方も多いようで、個人のお遍路さんも増えています。そう考えると、バスツアーは遍路の裾野すそのを広げる役割もになっているといえるでしょう」

  信仰のリーダー

  「私たちはお寺でお迎えして、少しの時間接するだけですから、出来ることと出来ないことがあります。しかし、先達さんはお経の音頭おんどもとるし、道案内もするし、お寺の縁起も話してくれます。ときには、お堂の中で仏さまについて話すこともありますから、信仰を深める大きな役目を担っています」と大西住職。先達さんへの感謝と期待は大きいようです。

  「先達さんには、まわりの人をきつける人望があってほしいです。田野さんは、あつい信仰心もお持ちのようだ。だから、まわりの人もついていくんでしょうね。永く続く、お遍路やお接待など、そういった気風をのこし伝えていただきたいです」

  好きが高じて

  もう一人、公認先達さんを紹介します。兵庫県に住む福田恵峰さんです。第30番札所善楽寺(真言宗豊山派)で、島田希保住職と一緒にお話をうかがいます。
  福田さんは平日にグラフィックデザイナーとして仕事をし、週末はほとんど四国で遍路に出るという生活を送っています。平成20年に公認先達となりました。
  「留守を夫にまかせて毎週通うほど、四国が大好き。知人や友人を連れてくることもあるけど、ひとりで回ることもしょっちゅうです。でも回っているうちに、初めてのお遍路で作法が分からず困ってい る人に気付くようになりました。そういう人たちに説得力を持って色々教えてあげたいと思い、公認先達の資格をとったんです」
  平成25年には高野山で得度とくどしき(仏門に入る儀式)を受け、仏弟子となりました。
  「より一層先達としての覚悟も決まりましたし、より遍路を伝え弘めたいと思うようになりました」

  歩きでも車でも

  「最初のお遍路はバスツアーでしたよ。あっという間に終わったので実感が湧わかなくて。よし、次は歩いてみようと思い立ちました。それからは一巡すると、また自然に1番札所へ足が向くようになったんです。歩き遍路がいい、みたいな風潮もありますけど、車でもバスでも関係ありません。そこに優劣があるとは思いませんから」
  難しく考えず、予備知識がなくてもいいので、まずは四国の地を踏んでほしいと福田さんは話します。

  "お遍路さん?"

  菅笠すげがさに白衣をまとい、金剛こんごうづえをもった姿でお馴染なじみのお遍路さん。遍路姿は、お接待をする人の目印にもなり、迷っていれば正しい道を案内してもらうこともできます。

  「装束しょうぞくには、こうしなきゃという決まりはありません。ただ、特に女性にとって、白衣を着ることには護身という意味もありますね。

それと、装束をつけて歩いていると"お遍路さん?"って声をかけられます。名前でも肩書でもなく、あくまでも"いち"お遍路さんです。そうすると、心がリセットされてほんわかするんです。私はみんなと同じただ一人のお遍路さんなんだって」

  福田さんいわく、四国そのものが、疲れた生活のリハビリになるそうです。

  遍路は世界へ

  島田住職が先達さんについて語ります。
  「僧侶でもなく、霊場で仕える人でもなく、お参りする人が他の巡礼者を導く、それが先達さんのすごいところです」
  そして四国遍路についても、
  「最近では外国人のお遍路さんを多く見かけます。広域に広がる札所を、円をえがくように巡回できる霊場は、世界的にも珍しいそうです。それもあって四国八十八ヶ所霊場が、外国の方にもよく知られるようになったと思います」
  四国遍路には、宗教も人種も超えて、人々を惹きつける魅力があるようです。

  遍路のちから

  福田さんは、留学生や親子に遍路体験をしてもらう活動も行っています。
  「四国には、今も昔と変わらない空と海、今では失われつつある日本の原風景が広がります。お接待を受けながら札所を巡る。たくさんの人と出会い、その優しさに触れる。そこで何かを感じ取り、なにより楽しんでほしいです。
  はじめはうつむいていた青年が、札所を巡るうちに、しっかり前を向いて力強く歩いていました。まるで別人のように凛々しくなったんです。1年前に回った頃の自分と、今、回ろうとする自分が違うのはもちろん、1番札所にいた時と88番札所で回り終えた時とでは、もう自分が違うんですよ」
  作法も大切ですが、遍路を楽しみながら色々なことに気付いてほしいと福田さんは言います。

  頼れる存在

  島田住職は語ります。「先達さんは遍路を一番身近で支えてくれる大切な存在です。わたしたちにはできないことを菩薩ぼさつぎょうのようにしてくださる。ありがたいことです」
  「さすが先達さんと言われる人になりたい。いつになるかわからないけど、お大師さまに会えるまで回り続けます。今ではお大師さまのおっかけです」と福田さん。そのほがらかな笑顔が印象的でした。

  四国遍路は、お大師さまとともに歩む同行二人の道です。
  いのりの案内人、公認先達さんと巡ってみてはいかがでしょうか。



お参りの作法 四国の元気印




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