季刊誌『光明』

平成29年-春-第203号



光明アカデミー



  弘法大師のご入定にゅうじょう

野口圭也 豊島区南蔵院住職/大正大学教授




  承和じょうわ二年三月二一日、弘法大師は高野山上において永遠の瞑想めいそうに入られました。これを「ご入定」と言います。正史である『しょく日本にほん後紀こうき』には、「大僧都だいそうず伝燈でんとう大法だいほっ師位しい空海、紀伊きいくに禅居ぜんきょに終る」と記されています。この日は、現在のカレンダーではほぼお彼岸のお中日、春分の日に当たり、お大師さまのお姿(お御影みえ)をおまつりする「しょう御影供みえく」の法要が行われています。しかし当時は旧暦でしたので、実際の日にちは現在とは少しずれており、西暦に直すと八三五年四月二二日に相当します。寒さの厳しい高野山でも、遅い桜が満開であった頃かと想像されます。
  「ご入定」の「定」とは、「かい・定・」の「三学さんがく」と言う、お釈迦さまの時代以来ずっと、仏教徒が必ず実践すべき最も基本的な三つの修行項目の一つです。戒とは修行生活の中で守るべき良い習慣のこと、定とは精神を一つに集中する瞑想、慧とは正しく真理を見極める心のはたらきのことです。
  この三つのどれもが不可欠の修行ですが、自らがほとけとなるための実践を重んじる真言密教においては、定をしっかりと実修することが特に重要でした。そのため弘法大師は、精神集中の瞑想を行う聖地として、えて都から離れた高野山の地を選び、そこに道場を建立し、また自らが永遠の瞑想に入る場所(禅居)とされたのでした。
  弘法大師は亡くなられたのではなく、高野山奥之院おくのいんのご廟所びょうしょで、今現在も永遠の瞑想に入っているのだ、という「弘法大師入定伝説」は、ご入定から八六年が経過した延喜えんぎ二一年(九二一)を始まりとします。この年、高野山座主ざすであった観賢かんげん僧正の申請によって、醍醐だいご天皇より「弘法大師」という贈り名が授けられました。このことを報告するため、観賢は天皇より賜った法衣を持って高野山に上がり、入定された石室を開きました。すると大師は瞑想を続けておられ、髪やひげが伸びていたので、それをきれいにお剃りし、下賜かしされた新たな法衣に着せ替えて再び扉を閉じました。
  この時のことは、平安時代後期に成立した『今昔こんじゃく物語ものがたりしゅう』巻第十一の「弘法大師始めて高野の山を建つること」という物語に記されています。また『平家物語』巻第十の「高野こうやまき」にも、詳しく説かれています。これらの言い伝えは全国に広まり、奥之院への納骨など、様々な形の弘法大師信仰へと発展してゆきました。
  高野山では今日に至るまで、毎年新旧暦の三月二一日に、新しい法衣をお大師さまに奉献する「衣替ころもがえ」の儀式と法要が行われています。また奥之院の灯籠とうろうどうでは毎日二回、供所くしょ調ととのえられた一飯一汁三菜の食事を弘法大師に給仕する「生身しょうじん」が行われています。
  奥之院一帯は、高野山上でも格別の聖域として、今日でも厳粛げんしゅくな霊気に包まれています。ここでは「弘法大師ご入定」が単なる物語や伝説に止まらず、日々の行事と生活の中で、弘法大師への信仰とともに今も生き続けているのです。





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