季刊誌『光明』

平成30年-新春-第206号



高橋英樹の生きる原点



私の宝物


  日活(※)に入ったのは、17歳のときです。まわりは先輩ばかりで、みなさんから丁寧ていねいな指導をいただきました。なかでも、浅丘ルリ子さんには、ずいぶんお世話になりました。いまでも、浅丘さんから電話がかかってくると、思わず背筋が伸びます。
  当時の主役は、石原裕次郎さんをはじめ、誰もがその名を知る大スターです。若かった私は、そんな方たちに憧れました。その時分、主役は扱いが別格で、出演者がみんなそろったあとに、スタジオへ入ってきても誰も文句を言いません。堂々としたその姿がまぶしく見えるんです。だから、映画の主役が回ってきたとき、私はスターの振る舞いを真似て、わざと5分遅れてスタジオに入ったことがあります。
  その日の夜、浅丘さんから電話がありました。
「あなたは、そこにいた全員の時間を無駄にしたんですよ!」
  遅刻すれば、たくさんの人に迷惑をかけることまで、考えが及びませんでした。そんな私を、浅丘さんは朝まで叱ってくれたのです。おかげでそれからは、「守衛しゅえいの次には高橋だ」と言われるほど、誰よりも早くスタジオに入るようになりました。
  浅丘さんには、挨拶あいさつの仕方も叩きこまれました。若くして役をもらった私が、自分は偉いと勝手に思いこみ、大道具さんに挨拶しなかったときのことです。
「その場にいる全員が、あなたの先輩です。軽く見ていい人なんて、一人もいません」
  と、浅丘さんは厳しく注意してくれました。
  時間を守る。挨拶をする。誰もが普通にできて当たり前のことですが、ふとした拍子に、ないがしろにしてしまいます。だから、そうならないよう、いつも客観的に自分を見るようにしています。
  もう一人、忘れられない人がいます。それが浪花千栄子さんです。17歳の時に初共演しました。高校生だった私は、撮影現場に教科書を持ちこみ、収録の合間に勉強をしていました。
  それから3年後、ふたたび浪花さんと共演する機会があったときのことです。主役を張るようになった私は、天狗になっていました。撮影の合間に役者仲間と交わすのは、酒か女か車の話題ばかりです。たまたま近くにいた浪花さんが、声をかけてくれました。
「あんた、変わりはったなぁ……」
  その言葉は、いまでもはっきり覚えています。役者の勉強と学校の勉強に、とにかく一生懸命だったときの気持ちを、しっかり思い出させてくれたのです。初心を忘れてはいけない。そのことを、私に気付かせてくれたひと言です。
  役者としては、失敗の連続でした。それでもここまで来られたのは、浅丘さんや浪花さんなど、周囲の人が支えてくれたおかげです。人の財産はお金でなく、本気で叱ってくれる人がいること。そんな人に恵まれた私は、ほんとうに幸せ者です。



  ※ 日活(現 日活株式会社)多くの俳優が所属していた日本映画の製作配給会社。





高橋 英樹
高校在学中の昭和36年5月、日活ニューフェース5期生として日活入社、『高原児』でデビュー。以後『激流に生きる男』『男の紋章』シリーズ、『けんかえれじい』『戦争と人間』『伊豆の踊り子』等、映画黄金時代に多数出演、活躍する。



一問一答コーナー
Q. 最近、夢中になっていることは?
A. 書と画ですね。他にも娘の勧めで、体幹トレーニングにハマっています。
Q. 奥様の手料理で好きなものは?
A. カレーとクリームシチュー。全部美味しいですけど、特に洋食は絶品です。


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