季刊誌『光明』

平成29年-夏-第204号



光明アカデミー



  どこにでもおわします“どうぎょうにん

平井宥慶 真言宗豊山派総合研究院 前院長/大正大学名誉教授/東京 常泉院住職




  いまの世の中はコンピューターの時代、身近の最たるものが携帯電話、今大きなパソコンと同等の機能をもったメカが私たちの手元にのる、つまり極大の機能を極小の精密機械に、極端に小型化できたということです。これを作り出す技術を支える能力に、「はかり(極小の長さを量る)」の発達がありま す。それでこの技術の分野では、わが日本の会社が世界の占有率何十%かを有しているそうです。
  この会社、決して大会社とはいえません。それが世界に飛躍できたのは、この社長さんの凄まじいまでの努力に支えられているといえましょう。彼の出身はかつて日本でも有数な豪雪地帯の奥地、鉄道の駅まで出るのにその時代の乗合いバスでは三時間以上かかる上、冬期にはそのバスも村までは行かない。しかもその家の長男として生まれ、長男が跡次ぐことは運命づけられていた時代です。その彼が都会を目指す想いに駆られるようになった、それは小学校(まだ六年まではない)の図書室で見た一冊の空想未来モノを描いた絵本。山奥の小学校の、本のふ んだんになどないなかで実に偶然にその本に出会った、今から思えばこれも運命、その半生ふりかえれば、危機は何度もありました。その都度、まぶたに浮かぶのは母親の顔、それをおもえば再び勇気が湧き、奮い立ったといいます。
  都会に出る、父に言っても絶対に許されない、これを実行するには黙って家を出るしかありません。の準備をし、いよいよ決行の朝、真っ暗なうちに出て駅まで歩く、その駅から乗ったのでは、知った人に合わないとも限らないので、都会方向に歩くだけ歩き、準備したお金で買えるところまでの切符を買い、そのあとはまた歩く覚悟、その朝枕元にはおにぎりが三つ。母が察知したのでしょう、米を作っても自分では食べられな いような時代、母がおにぎりを用意したのには血のにじむ努力が必要であったろうことを思うと、どんな労苦にも耐えねばと決心し、都会に出てからも職を転々として努力を重ね、ついにたどり着いたのが機械屋さんでした。ここで現代工業にはいかに“精密さ”が要求されるかを知り、細工を一人の熟練工に頼るだけでなく、より大量の生産に使える秤の製造に思い至った、ということです。
  苦労は量り知られず、会社を立ち上げてからも、資金・技術・人事・景気の変動、などなど、言い尽くせぬ苦労が次々と生起したが、その都度母の顔そしてあのおにぎりが浮かび、踏ん張って踏ん張った、といいます。世間では老年になったら何か趣味を持ったらいい、とか言われだしましたが、趣味などとても持つ気はないが、ただ仕事とは違う何かひとつ、という気が起り、“巡礼”に至ったということです。
  最もポピュラーなのが八十八ヶ所巡礼、でも四国まではとても行く時間がないのでない(東京全部歩きです)から、ということです。ここに「同行二人」という祈りがあるのを知り、自分にとって“同行”はあのおにぎりを持たせてくれた母、お大師さまは何処にでもいらっしゃる想い、同行二人は本当だ、と想い至ったのです。





第204号目次へ戻る→




『光明』年間購読のおすすめ


『光明』は年4回(正月/春彼岸/お盆/秋彼岸)の発行です。

年間購読の予約をされますと、毎号直接、有限会社豊山よりお送りいたしますので、大変便利です。
檀信徒以外の個人の方もご予約できます。

年間購読料について

1部:900円(税込・送料含)、2部:1,500円(税込・送料含)、3部:1,800円(税込・送料含)、4部:2,200円(税込・送料含)、5部:2,600円(税込・送料含)
※6部以上をお申し込みの場合は、有限会社豊山までご連絡下さい。



有限会社豊山

〒112-0012 東京都文京区大塚5-40-8
TEL/03-3945-3555 FAX/03-3945-0702
(土・日・祭日・その他仏教行事等で、長期お休みを頂く場合も御座います。予めご了承下さいますよう宜しくお願い致します。)