季刊誌『光明』

平成31年-新春-第210号



光明アカデミー



    異国の世界で “同行二人”

平井宥慶  真言宗豊山派総合研究院 前院長/大正大学名誉教授/東京 常泉院住職




  過日わたくしは、日本映画『空海』を取り上げました。今日はハリウッド映画のうわさをしようと思います。


  「同行二人」に当たりますやら?


  でも実はこの映画の、題目も主人公を演じた若者役者の名も忘れました。けれどもそのあらすじだけはしっかりと覚えております。


  舞台は(米国の)沿岸警備隊の海難緊急救助班、より良き社会人たらんと理想に燃えた一人の青年が緊急救助員の世界に憧れて、その訓練学校に希望してきます。そして教育が始まりますが、それが凄まじい過酷な訓練。その教官を演ずる俳優は、確か著名な何某さんでした。青年の同期で入った仲間たちは、ある者は教官への感情的反感から、ある者はその訓練の過酷さについていけず、その他もろもろの理由で脱落していく者が後を絶ちません。主人公も教官のあまりの強烈さに反感を抱きつつも、何とかついていくのですが、教官は極端に無口、その訓練はときに理解不能な場合もあって、いまひとつ教官の心を理解することができないことに悩みます。悩みといえば、アメリカ映画のこと、いろ模様のお噺も加味されて、徐々にクライマックスへとすすみます。


  教官は言います、珍しく多弁に。「俺らのやっていることは人を助けること、助けるよう努力しましたけど、ではすまされない。どうしても助けねばならないという不屈の精神、それに見合う救助技術の鍛錬、それがなければ助けられないし、、のだ。死んだらおしまい、仲間に悔悟の情を押し付けるだけではないか。そんなことが絶対にないように訓練に訓練、なのだ。この訓練に耐えられない者は即刻出ていった方がのためだ」というような意味のことを言います。実は教官はかつて現場で、救助の鏡とうたわれるほどの腕を誇っていた人なのですが、限りなく苦い思い出があって引退を覚悟し、引き留められて(だったと思います)教官にまわった、そんなことがあったのです。


  そして青年はいよいよ実戦訓練にのぞみます。教官がその現場にこの青年と一緒に行く。何しろそのときの救援作業は壮絶で、救助には成功するのですが、教官自身は遂に嵐の犠牲になりかえらぬ人となる、となります。


  ラストシーンは、青年が独り立ちして救助活動に従事。ある困難な現場で助け出しに成功した遭難者をヘリコプターに収容して、最後に乗りこんだ主人公の青年がパイロットに出発OKサインを出すと、助けられた男性が言います「アレもう一人はいいのか」と。「エッ僕一人ですが」「イヤもう一人いたろう?確かにいた!」


  観客は、その “もう一人” があの “教官” であることを覚ることで、思わず感動が呼び起こされます。こんなとき西洋ではときに、みたこともない「唯一神」を設定してお茶を濁してしまうことが往々にしてあるのですが、この映画は極めて映像的に「教官」が発想できるように描かれ、当方にも親しみやすい結末となりました。強調される不屈の精神もかけ声だけではなく、この教官の残した教え(救助技術指導)に支えられている、と具体的です。


  この筋書が「同行二人」の事例に適切になりますやら不確かですが、観客にそのことを想わせる演出が、わたくしたち何ぴとも「もう一人」を想うことで生きる気概が倍加させられると発信している、とは確実に言えると思います。「同行二人」の原点は「お大師さま八十八ケ所巡り」の想いですが、人生に “もう一人” は人それぞれに添った姿で現れますよ、というところが肝要です。そしてその姿を心ひそかにいだきつつ困難に立ち向かい生きる勇気を盛り上げましょう、ということ。この智慧はその “もう一人” からいただけると信じて、わたくしたちはその先のしあわせを祈念しつつ、日々を平明に暮らしていく努力を忘れない、これが弘法大師空海大和尚の教えの根幹(まん思想)であります。


  ーーなむだいしへんじょうこんごう





第210号目次へ戻る→




『光明』年間購読のおすすめ


『光明』は年4回(正月/春彼岸/お盆/秋彼岸)の発行です。

年間購読の予約をされますと、毎号直接、有限会社豊山よりお送りいたしますので、大変便利です。
檀信徒以外の個人の方もご予約できます。

年間購読料について

1部:800円(税込・送料含)、2部:1,200円(税込・送料含)、3部:1,500円(税込・送料含)、4部:1,800円(税込・送料含)、5部:2,200円(税込・送料含)
※6部以上をお申し込みの場合は、有限会社豊山までご連絡下さい。



有限会社豊山

〒112-0012 東京都文京区大塚5-40-8
TEL/03-3945-3555 FAX/03-3945-0702
(土・日・祭日・その他仏教行事等で、長期お休みを頂く場合も御座います。予めご了承下さいますよう宜しくお願い致します。)