季刊誌『光明』

平成29年-秋-第205号



光明アカデミー



    お大師さまの慈悲じひ無礙むげのおしえ

大塚伸夫(僧名:慈伸) 大正大学学長/千葉市大日寺住職




  お大師さまが本格的に仏の道に入られたのは、二十歳前後の青年期といわれています。その後、真言宗を開かれ、六十二歳で高野山の地にご入定にゅうじょうされるまで、ひたすら生きとし生けるものに厚い慈悲のこころをささげられました。それはまさに仏や菩薩さまの如くでした。
  そうしたお大師さまの想いは文章のみならず、実際の行動にも表れています。たとえば、四国香川県の満濃まんのういけの修築工事や、民衆教育のための綜芸しゅげい種智しゅちいんという大学の設立といった社会事業を例にあげることができます。特に綜芸種智院を設立するにあたっては「生生しょうじょう世世せぜに同じく仏乗ふつじょうして共に群生ぐんじょうせん(生まれ変わっても死に変わっても同じく、私は仏の教えにもとづいて、あらゆる生類しょうるいのために活動したい)」と述べています。この言葉には、仏教を教育の基本にすえ、分けへだてなく民衆教育のために大学を設立しようとした揺るぎない決意が表明されています。特に「群生」という言葉には、人びとのみならず、生きとし生けるすべてのものを等しく導こうとするお大師さまの慈悲のこころが見えてまいります。
  それでは、こうしたお大師さまの慈悲がどのような考えのもとに発露ほつろされているのでしょうか。お大師さまの書簡類を収載しゅうさいした『しょうりょうしゅう』の一文に「みなこれわが身なり。十界じっかい所有しょうならびにこれわが心なり(すべてのものは私の身体です。また地獄より仏の世界にいたる十の世界で生きる者たちの心も私の心なのです)」と記されています。この一文より、お大師さまの心奥しんおうをうかがうことができます。それはすなわち、生きとし生けるものとの一体感、真言宗における「無礙」という教えです。
  たとえば、お大師さまの代表的な著作である『即身そくしん成仏じょうぶつ 』には「しんぶつおよび衆生しゅじょう、三なり。かくのごとくの三法は平等平等にして一なり(私たちの心と仏とすべての生命あるものは等しく一体なのです)」とあり、「無礙」の教えの一端が示されています。このようにお大師さまは、悟りの世界と迷いの世界を区別せず、すべてのものが大日如来という大いなる存在を介して、同じ生命の輝きをもち、つながっていると考えています。この考えが根底にあるからこそ、お大師さまには身も心も一切の者たちと等しく一体であり、悩み苦しむ他者を見捨てることができないという慈悲のこころが発露してくるのです。
  人を貧富や優劣の物差しで短絡たんらく的に区別する考え方、人と動植物を区別する愚かさ、そういったものを超越したところにお大師さまの慈悲があるのです。今を生きる私たちも、お大師さまのように大いなる慈悲のこころをいだけるよう精進していきたいものです。





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